教養学部 総合科目D(S) 生体医工学基礎 I
化学生命工学基礎

2024年度 S 金曜2限 開講 1222教室


※4/5はオンライン実施、4/19以降は対面実施を予定しています。



各講義の概要紹介

4/5  化学と生物学を橋渡しする分子のデザイン、そこから生まれる健康社会【岡本 晃充】(オンライン)

ホームページ:https://park.itc.u-tokyo.ac.jp/okamoto/

生命活動を理解するためにそこに関わる分子の働きを理解することが必要です。その分子を制御したり、目に見えるようにしたりするには、それらを手助けする分子を新たにデザインして合理的に創り出す力を身に付けなければいけません。本講義では、化学合成DNAなどを例に出して、その有機化学からゲノム、免疫、創薬に至る一連の流れを概説します。光化学反応の話、体質・個性の話、新型コロナの話が分子設計をキーワードにして全部つながっていることを理解してもらえると思います。

キーワード:生物有機化学/生命反応化学/分子設計/バイオイメージング/核酸医薬

4/19 二酸化炭素、廃プラスチック…使えない原料を使うための化学【野崎 京子】

ホームページ:https://park.itc.u-tokyo.ac.jp/nozakilab/

カーボンニュートラル社会の実現は、現代の最重要課題の一つである。二酸化炭素は1分子に炭素原子1個を含んでいる。廃プラスチックの大部分は炭化水素であり、石油や天然ガスとほぼ同じ組成だ。これらの厄介者を炭素資源として活用するために、私たち化学者は何ができるだろう。みなさんと一緒に考えたい。

キーワード:CO2排出削減/廃プラスチックの有効利用/グリーンイノベーション

4/26 水を材料として使う:ゲルの物理化学の深化と医療材料への展開【酒井 崇匡】

ホームページ:https://gel.tokyo/tetra-gel/

ゲルは、ゼリーや豆腐、ソフトコンタクトレンズなど身近な物質・材料である。ゲルは、その大部分が水からなり、70%の水を含む私たちの体と類似の組成・構造を持っている。よって、ゲルを理解することは、生命の物質としての側面を理解することにほかならない。また、ゲルの理解に基づき精密に構造を制御することで、体に優しいバイオマテリアルを作ることもできる。本講義では、ゲルの最新の物理化学について議論するとともに、バイオマテリアルへの応用例について紹介したい。

キーワード:ソフトマター/ゲル/バイオマテリアル

5/3 有機エレクトロニクスを活用した化学センサ【南 豪】

ホームページ:https://www.tminami.iis.u-tokyo.ac.jp/

有機薄膜トランジスタ (OTFT) は、導電性高分子などを活用した電子デバイスであり、可撓性に優れる基板上に塗布プロセスを用いて作製できる。現在、R&Dが進められており、その代表的な成果はフレキシブルディスプレイのバックプレーン回路である。他方、OTFTはデバイス内の各電極電位の差によって出力信号の制御を可能とすることから、電気分析化学技術のプラットフォームとして有用と言える。換言すれば、大型の計測機器を用いずとも、発展途上国などで安価かつ容易に使用可能なオンサイト分析デバイスとなる可能性を秘めている。本講義では、電子デバイス工学、分子認識化学、分析化学、高分子化学を融合してつくられる次世代センサ「OTFT型化学センサ」を紹介する。

キーワード:有機エレクトロニクス/分子認識化学/センサ

5/10 光を操る・光が操る機能性超分子:エネルギー材料革命【加藤 隆史】

ホームページ:https://kato.t.u-tokyo.ac.jp/

「光」 をコントロールすることは人類にとって重要な課題である。降り注ぐ太陽光を電気に変換する薄膜有機太陽電池、わずかな電力で明るく照らす有機エレクトロルミネッセンス、光によって情報を発信する液晶ディスプレイ素子、大容量の情報を伝達する光ファイバ等がこれまでに開発されてきた。これらの最先端光機能デバイスの中心には、巧みにデザイン・合成された有機分子が活躍している。本講義では光と関わる最新の有機材料について、分子設計・分子配列制御技術からデバイス動作原理まで紹介する。

キーワード:超分子材料/光機能性分子材料/エネルギーマテリアル

5/15 海水から真水!:世界の水問題解決に貢献する高分子分離膜【辺見 昌弘】

東レ科学振興会

世界の水不足・水質汚濁は益々深刻になっています。水中の濁り成分からイオンまで取り除く高分子分離膜は、既に世界中の多くの人々を救っています。特に、逆浸透膜(RO膜)は、海水から塩分を除いて真水にしたり、下水や産業廃水を再利用できる水質に浄化したり、幅広く使われる高度な材料であり、たゆまぬ基礎研究と応用研究の賜物です。本講義では、高分子分離膜の基礎、最先端技術に加え、企業の研究・技術開発の考え方まで紹介します。

キーワード:逆浸透膜/海水淡水化/界面重縮合

5/17 分子界面現象から読み解く材料特性・生体機能【伊藤 喜光】

ホームページ:https://park.itc.u-tokyo.ac.jp/InterfaceMolEng/JP/

界面は物質同士が触れあう境界を指す。分子や蛋白質同士の相互作用といった小さな世界における官能基の種類や配列がマクロな材料物性や機能に大きく影響する。この分子界面は材料全体で見れば本当に僅かな領域だが、水をはじくフッ素コート表面のように身近に実感できる例も多い。逆に言えば界面を適切にコントロールすることができれば、様々な材料物性を自在に操ることができることを意味する。本講義では、ミクロからマクロに至る様々なスケールでの界面現象とその捉え方・制御法を紹介し、材料やデバイス、生体分子の中で果たしている役割を考えたい。

キーワード:界面/材料/分子間相互作用

6/7 RNAと生命現象:病気の原因を分子レベルで理解する【鈴木 勉】

ホームページ:http://rna.chem.t.u-tokyo.ac.jp/

ヒトを含めあらゆる生命において重要な働きを担うRNAは、情報と機能の二面性をもつ唯一の生体高分子である。最近の研究で、RNAが転写後に受ける様々な修飾が生命現象と密接に関わることが明らかになりつつあり、エピトランスクリプトミクスと呼ばれる生命科学における新しい分野が生まれている。私たちはRNA修飾が欠損するとヒトの病気の原因となることを、世界に先駆けて突き止めた。本講義では病気の原因を分子レベルで理解することが如何に治療法の開発に重要かについてお話ししたい。

キーワード:RNA修飾/エピトランスクリプトーム/疾患

6/14 ニューロンの機能を分子の言葉で読み解く【平林 祐介】

ホームページ:https://park.itc.u-tokyo.ac.jp/Hirabayashi/WordPress/jp/

脳は数百億個のニューロンによる複雑なネットワークにより成り立っている。我々の記憶や思考はそれぞれのニューロンが計算ユニットとして情報を処理し他のニューロンへとシグナルを伝える過程の蓄積に他ならない。それぞれのニューロン内での情報処理メカニズムはブラックボックスであったが、近年の技術の発達によりナノスケールの分子的メカニズムがいよいよ明らかになり始めている。本講義では我々の思考の根幹を担う分子反応やナノレベルの構造について最新の研究結果を交え紹介したい。

キーワード:ニューロン/細胞生物学/ナノスケール

6/21 生命の源「アミノ酸」〜生理機能からモノづくりまで〜【涌井 渉】

味の素株式会社

1806年フランスで、アスパラガスの芽からアミノ酸がはじめて発見され、1935年までにたんぱく質を構成するすべてのアミノ酸が発見されました。また、私たちの生命の誕生については、地球外起源説、原始大気起源説、原始海洋起源説などいくつかの説がありますが、いずれにしても生命の源はアミノ酸だと言われています。本講義では、私たちの体の約2割を占めているアミノ酸に注目し、生命の関わり、生理機能を整理します。また、材料としてのアミノ酸に着目したモノづくりについて紹介します。

キーワード:アミノ酸/生理機能/医薬品/化粧品/企業研究

6/28 クライオ電子顕微鏡で新型コロナウイルスを視る【西増 弘志】

ホームページ:https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/research/frontrunner_nishimasu.html

近年のクライオ電子顕微鏡解析技術の進展により、様々なタンパク質の立体構造を視て、それらが機能するメカニズムを理解することが可能になってきた。新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の構造研究から、ウイルスがヒトに感染するメカニズム、特定の変異がウイルスの感染性や毒性を変化させるメカニズムが原子レベルで明らかにされてきた。スパイクタンパク質の構造情報はmRNAワクチンの開発においてもカギとなった。本講義では新型コロナウイルスに関する構造生物学研究の成果について紹介したい。

キーワード:構造生命科学/クライオ電子顕微鏡/新型コロナウイルス/mRNAワクチン

7/5 工学から創薬に挑む:物理化学と計算科学による蛋白質相互作用の制御【津本 浩平】

ホームページ:https://park.itc.u-tokyo.ac.jp/phys-biochem/

難治性とされる疾病が、今までとは異なる戦略により創製された新薬によって克服される例が増えており、創薬研究における工学の力が重要視される時代を迎えようとしている。これは、創薬標的である蛋白質をいかに抗体や低分子で認識し、制御するかについての本質が,工学系のさまざまな手法(特に物理化学、計算科学)を駆使することで明らかにされてきたことによる。本講義では、生命化学/工学を基盤とした創薬の現状と今後について、最新の結果も交えて紹介したい。

キーワード:創薬/蛋白質間相互作用/物理化学/計算科学

7/12 ケミカルバイオロジー:生命を化学で理解し、制御する【山東 信介】

ホームページ:https://park.itc.u-tokyo.ac.jp/sandolab/

私たちの体は分子の集まりである。生体分子の秩序だった活動が、生物が生命を維持する未解明の仕組みであり、その異常は様々な病気の原因となる。生体分子の機能の本質を知ることができれば, 病気のメカニズム解明や早期診断も可能になる。また分子レベルで生体分子の機能を制御できれば、新たな生命工学技術になる。本講義では、これら生命の理解や疾病診断・治療に貢献する化学=ケミカルバイオロジーについて、代表例とともにその考え方を紹介したい。

キーワード:ケミカルバイオロジー/生命分子工学/生命と有機化学