教養学部 総合科目D(S) 生体医工学基礎 I
化学生命工学基礎

2019年度 S 金曜2限 1214教室

各講義の概要紹介

4/5 RNAと生命現象:病気の原因を分子レベルで理解する【鈴木 勉】

ホームページ:http://rna.chem.t.u-tokyo.ac.jp/

ヒトを含めあらゆる生命において重要な働きを担うRNAは、情報と機能の二面性をもつ唯一の生体高分子である。最近の研究で、RNAが転写後に受ける様々な修飾が生命現象と密接に関わることが明らかになりつつあり、エピトランスクリプトームと呼ばれる生命科学における新しい分野が生まれている。私たちはRNA修飾が欠損するとヒトの病気の原因となることを、世界に先駆けて突き止めた。本講義では病気の原因を分子レベルで理解することが如何に治療法の開発に重要かについてお話ししたい。

キーワード:RNA修飾/エピトランスクリプトーム/疾患

4/19 光を操る・光が操る機能性超分子:エネルギー材料革命【加藤 隆史】

ホームページ:http://kato.t.u-tokyo.ac.jp/

「光」 をコントロールすることは人類にとって重要な課題である。降り注ぐ太陽光を電気に変換する薄膜有機太陽電池、わずかな電力で明るく照らす有機エレクトロルミネッセンス、光によって情報を発信する液晶ディスプレイ素子、大容量の情報を伝達する光ファイバ等がこれまでに開発されてきた。これらの最先端光機能デバイスの中心には、巧みにデザイン・合成された有機分子が活躍している。本講義では光と関わる最新の有機材料について、分子設計・分子配列制御技術からデバイス動作原理まで紹介する。

キーワード:超分子材料/光機能性分子材料/エネルギーマテリアル

4/26 可逆な結合がポリマーを変える:自己修復、強靭性、形状記憶、、、【吉江 尚子】

ホームページ:http://yoshielab.iis.u-tokyo.ac.jp/

自己修復性や究極の強靭性、形状記憶性などの機能性材料が、ポリマ―鎖に可逆反応で切断と再形成を繰り返すことのできる結合を導入することにより開発されている。ポリマー鎖の化学構造や、導入する可逆な結合の種類と位置の選択により、熱や光、水、機械的な力などの外部刺激により引き起こされる分子構造の変化(架橋体から直鎖へ、高分子から低分子へなど)をデザインし、材料に魅力的な機能を与える道筋の一端を紹介したい。

キーワード:スマートマテリアル/動的結合/ポリマー材料

4/30 有機エレクトロニクスを活用した化学センサ【南 豪】

ホームページ:http://www.tminami.iis.u-tokyo.ac.jp/

有機薄膜トランジスタ (OTFT) は、導電性高分子などを活用した電子デバイスであり、プラスチックや紙といった可撓性に優れる基板上に、塗布プロセスを用いて作製できる。現在、R&Dが進められており、その代表的な成果はフレキシブルディスプレイのバックプレーン回路である。他方、OTFTはデバイス内の各電極電位の差によって出力信号の制御を可能とすることから、電気分析化学技術のプラットフォームとして有用と言える。換言すれば、大型の計測機器を用いずとも、発展途上国などで安価かつ容易に使用可能なディスポーザブルオンサイト分析デバイスとなる可能性を秘めている。本講義では、電子デバイス工学、分子認識化学、分析化学、高分子化学を融合してつくられる次世代センサ「OTFT型化学センサ」を紹介する。

キーワード:有機エレクトロニクス/分子認識化学/センサ

5/10 CO2からつくるプラスチック:究極のリサイクルを目指して【野崎 京子】

ホームページ:http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/nozakilab/

化石資源の枯渇に際し、化学産業は次世代の原料を模索している。環境問題を語る上ですっかり悪者になっているCO 2は、実は一分子あたり炭素原子1個を含んでいる魅力的な炭素資源だ。CO2を炭素源とする材料は燃焼してCO2に戻っても、最終的にCO2の増加にはつながらないという視点からカーボンニュートラルと呼ばれている。現在カーボンニュートラルな材料として植物資源の利用が検討されているが、もっと効率の良い方法はないのか?ここが化学の出番である。

キーワード:CO2/グリーンイノベーション/生分解性プラスチック

5/17 海水から真水!:世界の水問題解決に貢献する高分子分離膜【辺見 昌弘】

東レ(株)理事 技術センター(水処理)担当、研究本部(東レシンガポール水研究センター)担当

世界の水不足・水質汚濁は益々深刻になっています。水中の濁り成分からイオンまで取り除く高分子分離膜は、既に世界中の多くの人々を救っています。特に、逆浸透膜(RO膜)は、海水から塩分を除いて真水にしたり、下水や産業廃水を再利用できる水質に浄化したり、幅広く使われる高度な材料であり、たゆまぬ基礎研究と応用研究の賜物です。本講義では、高分子分離膜の基礎、最先端技術に加え、企業の研究・技術開発の考え方まで紹介します。

キーワード:逆浸透膜/海水淡水化/界面重縮合

5/24 結晶性ナノ空孔を舞台とした化学【佐藤 弘志】

ホームページ:http://macro.chem.t.u-tokyo.ac.jp/

日常生活において酸素、窒素、二酸化炭素をはじめとする気体分子を意識する機会は少ない。一方、環境、産業、生命に関わる様々なシーンで気体分子は重要な役割を果たしている。本講義では、ナノメートルサイズの無数の「穴」があいた結晶をツールとして用いることで、一般に扱いの難しい気体をどのように扱うことができるかについて学ぶ。

キーワード:気体/多孔性材料/ナノ空孔/機能性材料

6/7 ニューロンの機能を分子の言葉で読み解く【平林 祐介】

ホームページ:http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/Hirabayashi/WordPress/jp/

脳は数百億個のニューロンによる複雑なネットワークにより成り立っている。我々の記憶や思考はそれぞれのニューロンが計算ユニットとして情報を処理し他のニューロンへとシグナルを伝える過程の蓄積に他ならない。それぞれのニューロン内での情報処理メカニズムはブラックボックスであったが、近年の技術の発達によりナノスケールの分子的メカニズムがいよいよ明らかになり始めている。本講義では我々の思考の根幹を担う分子反応やナノレベルの構造について最新の研究結果を交え紹介したい。

キーワード:ニューロン/細胞生物学/ナノスケール

6/14 アミノ酸にみる化学と生物を融合したモノづくり【涌井 渉】

味の素(株)バイオ・ファイン研究所 香粧品グループ

1806年フランスで、アスパラガスの芽からアミノ酸がはじめて発見され、1935年までにたんぱく質を構成するすべてのアミノ酸が発見されました。また、私たちの生命の誕生については、地球外起源説、原始大気起源説、原始海洋起源説などいくつかの説がありますが、いずれにしても生命の源はアミノ酸だと言われています。本講義では、私たちの体の約2割を占めているアミノ酸に注目し、皮膚科学に関するトピックスを中心に化学と生物を融合したモノづくりについて紹介します。

キーワード:アミノ酸/ペプチド/化粧品/皮膚科学

6/21 ケミカルバイオロジー:生命を分子レベルで理解し、制御する【山東 信介】

ホームページ:http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/sandolab/

私たちの体は分子の集まりである。体の中の分子の秩序だった活動が、生物が生命を維持する未解明の仕組みであり、その異常は様々な病気の原因となる。体の中の分子の活動を知ることができれば、病気のメカニズム解明や早期診断も可能になる。また分子レベルで細胞機能を制御できれば、新たな生命工学技術になる。本講義では、これら生命の理解や疾病診断・治療に貢献する分子技術について、代表例とともにその考え方を紹介したい。

キーワード:ケミカルバイオロジー/生命分子工学/生命と有機化学

6/28 化学を使って生命の源を探ろう:遺伝子センサーを創る【岡本 晃充】

ホームページ:http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/okamoto/

生命分子システムの秘密を探るためには、有機化学を基礎にした分子設計が必要です。遺伝子のはたらきが細胞の中でどうやってコントロールされているか、これを観るために化学をどう使ったらいいのか、さらにはその結果としてわれわれの健康にどのように役立てられるのかを一緒に考えましょう。

キーワード:ゲノムケミストリー/遺伝子多型/エピジェネティクス

7/5 工学から創薬に挑む:物理化学と計算科学による蛋白質相互作用の制御【津本 浩平】

ホームページ:http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/phys-biochem/

難治性とされる疾病が、今までとは異なる戦略により創製された新薬によって克服される例が増えており、創薬研究における工学の力が重要視される時代を迎えようとしている。これは、創薬標的である蛋白質をいかに抗体や低分子で認識し、制御するかについての本質が、工学系のさまざまな手法(特に物理化学、計算科学)を駆使することで明らかにされてきたことによる。本講義では、生命化学/工学を基盤とした創薬の現状と今後について、最新の結果も交えて紹介したい。

キーワード:創薬/蛋白質間相互作用/物理化学/計算科学

7/12 分子擬態の発見からRNA創薬ビジネスへ【中村 義一】

東京大学医科学研究所 ・(株)リボミック
ホームページ:http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/rnaikagaku/top.html http://www.ribomic.com/index.html

RNAアプタマーとは標的分子に特異的に結合する核酸のことで、抗体医薬に代わる次世代の分子標的医薬として注目されている。最近の研究によって、RNAにはこれまで予想されなかった多様な「かたち」を創る潜在力があることが徐々に明らかになってきた。その「造形力」によって標的タンパク質に特異的に結合し、その働きを阻害する医薬品の開発がアプタマー創薬である。本講義では、アプタマー創薬への契機となったRNAとタンパク質の分子擬態の発見から、具体的なアプタマー医薬創製の最前線までを紹介したい。私は、平成24年3月に東京大学を定年退官後、アプタマー医薬品開発を目的に起業した(株)リボミックというベンチャーの代表として、アカデミアからビジネスに転身。幸い昨年9月東京証券取引所マザーズに株式を上場することができた。この過程で経験した幾つかのエピソードも紹介したい。

キーワード:核酸医薬/RNAアプタマー/分子擬態/希少疾患